ムーンライト(1)

イラストkei さん
満天に輝くスターダスト。
戦闘服姿のベジータはふと立ち止まる。
地球の夜は美しい。
どこまでも黒く透き通っていて星の輝きがぬれるように瞬いている。
この透明感は今までベジータが知っているどんな星にも無かった。
天を仰ぎ見るベジータ。
この平和な美しい星で
いま自分が身にまとっている戦闘服がどれだけ不似合いな物なのか?
それはベジータだって気づいてはいる。
自分のフリーザ軍での数々の行いが
ここでは全く無かったことのようにさえ思うことがある。
しかし。
忘れられるわけが無い。
自分の過去を否定することは
いまの自分を否定することだ。
何故だか胸がしめつけられる。
ベジータが地球にきてもうどのくらいになるだろうか。
かつては宇宙を震撼させた最凶の戦士ベジータ。
一度失ったその命をドラゴンボールに救われ
今この星に生きながらえている。
欲望のままに破壊と殺戮を重ね今まで生きてきた彼。
白いその手袋を真っ赤に染め続けて
彼は今まで生きてきた。
ベジータの経験した闇はもっともっと黒い夜。
足元さえ確認できないよどんだ深い闇。
生き物の存在しない
瓦礫と砂塵だけの冷たい世界。
そしてそれが自分の生きて滅びる世界だと思っていた。
ベジータは自分の手のひらを見る。
この手で
自分はどれだけの命を奪ってきたのだろう。
何人も何人もの
数え切れないほどの人生を
この手で握りつぶしてきたのだろう。
白い手袋は真っ赤な血をすって
ベジータに問い掛けつづける。
サイヤ人の呪われた王子、ベジータよ
お前にはもう帰るところは無い
お前にはもう生きていく目的も無い。
なのにお前はどうして生きているのか?
お前に生きる価値があるのだろうか?
見ろ、
お前の手のひらを。
お前は自分の手を見つめることが出来るのか?
その穢れた手のひらでお前は何をしようとするのか?
認めろ
自分の過去を。
手袋を通して染み付いた赤い血のにおいのするお前の手のひらを。
おまえは
それでも生きていけるのか?
何のために?
何をするために?
ベジータは唇をかみ締めた。

イラストkei さん
この星は平和すぎる。
俺の存在を否定し続ける。
俺は戦ってこそ俺なんだ。
わかるか?
なあ、カカロット。
今日もカプセルコーポレーションに帰る気にはなれなかった。
やわらかいベッド、暖かい食事。
かえって孤独感が深まるのだ。
自分のいた世界を、自分自身を否定される気がするのだ。
ベジータは岩陰に腰を下ろす。
そしてそのまま岩に背中を預けて目を閉じた。
冷たく堅い岩石の感触が
ベジータの心を和ませる。
・・・そうだ
俺は
何もいらないんだ
誰にもかかわらず
好き勝手に生きていく
かまわれるなんてごめんだ
ふとベジータの脳裏に浮かぶ
透明な瞳
それは
誰のものでもないブルマの面影。
ベジータは、はっと目を開く。
不機嫌な表情を浮かべたベジータ。
思わず舌を鳴らす。
何でこんなやつの顔が・・・
自分の感情を理解できないベジータは
何度もこぶしを握りなおし
眠れない夜を今日も過ごす。
ムーンライト(2)

イラストNEOさん
「いったい今日は何でそんなに不機嫌なんだ?」
カプセルコーポレーションの朝。
小鳥が囀るさわやかな朝。
その明るさとは全く無関係に
ブルマとヤムチャの間には緊張感が溢れていた。
たまらずに声をかけたのはヤムチャのほうだった。
もうとげとげしい沈黙に我慢ができなかった。
ブルマの感情の起伏はあまりにも激しい。
昔からわかっていることではあるのだが。
何時も折れるのは彼のほうだった気がする。
振り返ったブルマはジロリ、とヤムチャをにらみつける。
一瞬ヤムチャは後ずさりしそうになった。
「本当になぜだかわからないの?」
ブルマは冷たく言い放った。
ヤムチャはつばを飲み込んだ。
心当たりがあるらしかった。
そんなヤムチャからブルマは目をそらさない。
ブルマは続けた。
「どうして朝帰りなの?」
「え?」
「私は朝までおきていたわ」
ヤムチャは小さい声でつぶやいた。
「…なんで昨日に限って…」
「ああそう、まってちゃ悪かったわけ?」
「誰もそんなこと言ってないじゃないか」
ブルマはすたすた歩き出した。
その後をヤムチャが追いかける。
急に笑顔になるヤムチャ。
機嫌を取り出したのが丸分かりである。
「なんだよ、飲みにいってただけじゃないか」
ブルマの進む先へ先へとまわろうとする。
「あら、そう」
ブルマはプライベートルームに入っていく。
ヤムチャも続いてはいっていった。
ブルマは大声をあげた。
「はいってこないでよっ!」
ブルマが突然本を投げつけた。
「バカにしないでよっ」
本はヤムチャの額に音を立ててあたる。
ヤムチャはあえてよけなかったのだ。
地球人の中では1、2を争う戦士ヤムチャ。
彼がブルマの投げるもの程度で痛みを感じることはありえないのだ。
「何でお前を…バカになんかするものか」
ヤムチャはうっすら笑みを浮かべる。
興奮した子猫のようなブルマ。
近づくヤムチャに手当たりしだいものを投げつける。
ヤムチャはかまうことなくどんどんブルマに近づいていく。
「わかっているんだ」
「なによっ」
「お前が怒ってない事をさ」
「うるさいっ!」
ヤムチャから漂うかすかな香り。
淡い花の様な甘い香り。
ブルマにそれがわからないはずがなかった。
その香りを匂わせながらヤムチャはブルマに近づいてくるのだ。
「お前は…」
ヤムチャがブルマを壁際に追い詰めた。
暗い影がブルマにかぶさってくる。
ヤムチャの大きな体が迫ってくる。
ブルマは精一杯腕を突っ張る。
「そういうけれど俺からは離れられないんだ…」
「バカッ」
悔しかった。
何でこの男はこうなんだろう?
私がヤムチャからはなれられないってどういうこと??
たとえ体の関係を持ったからといって
女が男の所有物になるはずがない。
私は私だ。
一人の人間だ。
たとえ男に自分の体を与えたからといっても
心まで渡したわけはないのだ。
「お前は何時も不機嫌だよな」
「あんたのせいよ」
「でもさ」
後ろは壁。
ブルマは思わずしゃがみこんだ。
頭を抱え、小さくなった。
「抵抗するのか?」
「ごまかさないでよ」
「なにを?」
ヤムチャはブルマの身体を抱きしめようとする。
その手をブルマは何度も振り払う。
「抱いてしまえばおとなしくなると思ってるの!」
「…ちがうの?」
「やめてよ」
「かえってその気になるぜ」
「や…」
「うそつけ」
左手首をつかまれてブルマは体をもち上げられる。
「でてってよ・・・」
「いやだ」
ヤムチャは唇をちかづけた。
たくましい筋肉がブルマに押し付けられる。
かすかな香りがブルマの鼻をつく。
ブルマはみてしまった。
ヤムチャの首筋についている赤いあざを。
「やだ!」
もう堪えられなかった。
別の女と関係をもちながらなおも自分を抱こうとするヤムチャに。
ヤムチャの腕が何度も伸びてくる。
ブルマはつめを立てて暴れた。
手当たり次第にものを投げつけ足でヤムチャを蹴っ飛ばす。
…ヤムチャの顔が少し翳った。
思うどおりにいかないブルマに対して不満をあらわにしていた。
突然無言で背後からブルマの体をきつく抱きしめた。
胸が締め付けられて息が出来なくなる。
体中をわしづかみにされて痛みに声があがった。
「…やだ…やだ…やめて!!」
そのとき。
開きっぱなしのドアの向こうに人影が現れた。
ベジータだった。
ムーンライト(3)
ブルマは思わず動きを止めた。
自分の指先が一気に冷たくなるのを感じた。
心臓の音が響く。
自分の頭の中で痛いほどに響く。
ブルマはベジータの顔を見たくないと思った。
でも眼が彼に吸いつけられてしまった。
眼をそらそうとした。
なのに体が凍りついたように動かなかった。
口の中が渇いて
唇が小さく震えた。
ヤムチャもベジータの姿に気づいたようだった。
しかし彼は動きを止めなかった。
むしろさらに腕に力を入れた。
ブルマの身体を持ち上げて
ベジータのいるほうに向けようとした。
ブルマの髪が音を立てて乱れ崩れた。
ブルマはベジータの姿を見てしまった。
逆光を浴びたベジータは光っているように見えた。
彼はたった今修行から帰ってきた、
まさにそのままの姿であった。
小ぶりながら美しい彫像のような体は
ぼろぼろの戦闘服に包まれ
かすかに血のにおいを漂わせていた。
…表情はよく伺えなかった。
ベジータは一瞬ドアのところで歩みを止めた。
その一瞬がブルマにはとても長く感じられた。
ベジータの黒い瞳がブルマを見たように思った。
どこまでも深く
どこまでも黒いベジータの瞳。
闇より暗いベジータの瞳。
そんな瞳がブルマを見たように思った。
それは光のない
どんよりとつかれきった曇った目。
…しかしベジータは
何事にも気づかなかったかのように
その場から去っていった。
それがかえって不自然だった。
ブルマの動悸はいっそう激しくなった。
見られた…こんなところを。
ブルマは自分でも変になるのではないこと思うほど
赤面していた。
体中が音を立ててがたがた震えた。
「ベジータの奴、どうおもったかな?」
ヤムチャがブルマの耳元に唇を触れさせながら
嬉しそうにささやいた。
その冷たい感触にブルマの体は震えた。
いっそう体を密着させるヤムチャ。
明らかにブルマの反応を楽しんでいた。
かすかに震えるブルマの顎を
繰り返し右手でさする。
「あいつだって男なんだから、こんなお前の姿を見たら…」
ヤムチャがさらにブルマをきつく抱きしめた。
そして今度はその唇をブルマの首筋に押し付けた。
「いたっ!」
あまりの痛みに声がもれた。
「うそつけ・・・。」
ヤムチャがブルマの首筋に内出血の後をつけていく。
ひとつ、またひとつと。
「…やめてよ」
ブルマがヤムチャから体を離そうとした。
ヤムチャはわざと少しだけ力を抜いた。
ブルマの動きをまっているようである。
「やめてったら!」
ブルマはさらに両腕を突っ張って
ヤムチャから逃れようとした。
「痛いわ!ひどいじゃない!!」
「ただのキスマークだろう?
なにをおこってるんだ?」
「何でこんなところに酷くつけるのよ!」
ヤムチャは意地悪く笑みを浮かべる。
「ベジータに見られたくないのか?」
「…そんなこと…」
ヤムチャはさらにブルマを捉えようとする。
「ベジータのことなんか関係ないわ!」
「そう?俺はいつもより…」
ブルマはそのヤムチャの首筋のあざのことには触れなかった。
認めれば…自分が惨めだと思った。
ヤムチャの昨夜の行動には気づかないほうが
自分は幸せではないかと思ったのだ。
いくらブルマが元気でも
ヤムチャとの体力の差はどうしようもない。
どんなに口で抵抗しても
押さえつけられればそれでおしまいだ。
髪を乱し息を切らして座り込んだブルマに
ヤムチャはゆっくりと近づく。
そして彼女の体を軽々と抱き上げ、
勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
それから何日かがたっていた。
あれからブルマは一度もベジータと顔をあわせなかった。
ブルマ自身が部屋から出なかったからだ。
ヤムチャが何度か部屋を訪れた。
が、ブルマはドアをロックしたままだった。
「あけろよ。」
ヤムチャはそういうものの
ドアが開かないと判るとあっさり引き上げたのだった。
…なによ。
もう今の私には用はないってわけ?
ヤムチャは多分出て行った。
何時もそうだ。
どこかに遊びにいったのだろう。
私がほんの子供だったときに
私はヤムチャとであった。
ヤムチャはかっこいい盗賊だった。
強くて、ハンサムで、優しくて、背が高くって…。
ほかの女の子に見せびらかしたくなる男の子だった。
凄く人気があって…私は彼といるのが本当に嬉しかった。
そしてヤムチャも私が大好きになったんだ。
拳法が強くて
素敵な男の子。
ヤムチャがかわったのだろうか?
それとも私が??
昔のヤムチャは力で私を押さえつけるようなことはしなかった。
私が泣いているのをみて平気な男の子じゃなかった。
どうして?
いくら考えても判らなかった。
自分がどうしたいのか。
これからどうすればいいのか。
私たちはいつまでもあのころの二人じゃないんだ。
いつまでも子供のままじゃないんだ…。
だからといって
ブルマがヤムチャと分かれる理由がない。
今まで共に暮らしてきた生活を、
積み上げてきた思い出を捨てることなんかできない。
楽しかったのだ。
幸せだったんだ。
…私はヤムチャから自由になりたいのだろうか?
本当に?
それさえはっきり判らないのだ。
そんな状態が続いていた。
答えの出ない問いに自問自答を繰り返し
ブルマは疲れ果てていた。
その夜。
それは月のきれいな夜だった。
漆黒の夜空に白く輝く満月が輝いていた。
月の光が降るように溢れ
ダイヤモンドのような星屑が満天に輝いていた。
ブルマは自分の部屋から月を見ていた。
月の光にはふしぎな力がある。
自分の体のなかの何かが目覚めるようなそんな感じがする。
ブルマは自然に窓を開けた。
夜風がブルマの肌を刺激した。
窓から身を乗り出し新鮮な空気をすう。
飛んでいきたい。
どこか遠くへ。
こんな自分が
もういやだ…。
そのとき。
「おい」
どこかから声が聞こえた。
ブルマは息を止めた。
「そんなところにいないで、出て来い。」
声の主はベジータだった。
ムーンライト(4)

イラストネオ
「ベジータ…?」
ブルマの声がわずかにかすれた。
その自分の反応に驚いているのは
勿論彼女自身だった。
ブルマはどきどきしながらあたりを見回した。
ベジータの姿を捜し求めた。
何故なのか自分でもわからない。
だけど
ブルマは自分の体がかすかに震えているのに気がついていた。
その震えは間違いなくブルマの体の中から起きている。
心臓の波打つ音が体中に大きく鳴り響く。
なぜ?
なぜ私はこうなるの??
この何日か聞きたくなかったベジータの声。
彼を見たくない
彼に会わまいと
ブルマは部屋にこもってきた。
そう。
会いたくなかったのはヤムチャじゃない…。
ベジータに会いたくなかったのだ、私は。
弱い自分を見られた彼に。
自分を見透かすような瞳を持つ彼に。
でも
やはり聞きたかった声なのだ。
ブルマは自分の胸の高鳴りを感じた。
手にじっとりと汗をかいている。
孤独を愛するベジータ。
そのベジータの普段のしゃべり方は抑揚が少ない。
冷たい、人を寄せ付けないしゃべり方だ。
言葉数も少ない。
なのに何だか彼を憎めない。
透明感があって
少年のようにも聞こえる声だ。
品がよくて
よく通る
美しい声だ。
ブルマは天を見上げた。
どこまでも続く夜空。
そのずっとずっと上空に小さく浮かぶ影があった。
降り注ぐ星の光。
ムーンライトに照らされた美しいシルエットだ。
まるで古いギリシャ神話の彫像のような…。
ブルマの眼はその神々しいまでの姿に釘付けになった。
ああ、そうなんだ…
ベジータは王子だったんだ。
ブルマははっきりとそう感じた。
これは理屈ではなかった。
ベジータは残酷な兵士だった。
多分それは今も変わることはないのだろう。
ブルマはそれを十分承知している。
ナメック星では自分だって殺されていたかもしれなかった。
ヤムチャを、天津飯達を殺したベジータ。
幼い悟飯でさえ殺そうとした。
残酷な方法で。
仲間さえためらいもなく殺したベジータ。
大小さまざまな星を滅亡させ、
数え切れない命を踏みにじったベジータ。
しかし。
彼もまた被害者だったのかもしれなかった。
王子である彼が一戦闘員として
自らの身体を切り刻む。
これは普通ではないとブルマは思った。
彼の割れたガラスのようにとがったプライドは
傷つけられた心の叫びなのではないか。
…そう思う自分の気持は以前からあった。
でも、いいように捉えすぎだと思っていた。
悪は悪と。
しかし
ブルマは思う。
彼はやはり王子なのだ。
ヤムチャとも、孫君とも、何かが違う。
感じる何かが。
だから
ベジータのこの残酷さは
彼が生きていく為の
やむなき手段だったのではないかと思うのだ。
そう、たぶん
彼もまたさらに大きな力に屈服させられていた
一人の男でしかなかったのだろう。
そして今は帰るところさえない…。
ブルマは深く息を吸い込んだ。
着飾った様子もなく
自分を好ましく見せようという気もない男を
これほど美しいと思ったのは
生まれて初めてだった。
しばらくの静寂。
光り輝くベジータの影はゆっくりと降下を始めた。
腕を組んだまま。
そのうち少しずつ彼の表情が読めるようになった。
眉間にしわを作ったいつもの表情である。
「おい」
ベジータが口を開いた。
「籠ってないでここに来て見ろ」
そういわれたブルマは改めて窓の下を確認した。
ここは3階である。
「ここって…」
ブルマはベジータのほうを見て、答えた。
「夜空は気持よさそうね。
でも…」
「なんだ」
「私は飛べないのよ」
「何!?」
ベジータは眉を少しだけ動かした。
「貴様…まだ飛べないのか!」
「あのねえ…」
ブルマはベジータが真剣に言ったものだから
何だかおかしくなってしまった。
「地球じゃ飛べなくて普通なのよ…
飛べるベジータが変わり者なの。」
ベジータの顔がかすかに赤くなった。
ブルマは思わず微笑んだ。
そして
腕を組みなおし何か考えているように見えた。
その後、しばらくしてベジータは急に高度をさげた。
ブルマの部屋の窓と同じ高さまでやってきたのである。
「ちっ…」
小さくそう言って、ベジータはくんでいた両腕を解いた。
そして右手をブルマのほうに差し出したのである。
「つかまれ」
ブルマは自分の目を疑った。
どうしていいのかわからない。
差し出された白い手袋をつけた右手と彼の顔を何度も見比べた。
戸惑うブルマにベジータは今度はしっかり右手を差し伸べた。
そしてはっきりと言った。
「さっさとしろ」
ブルマはその手袋を見つめた。
恐る恐るベジータのほうへ右手を伸ばそうとした。
その小さなブルマの手をベジータがさっとひいた。
「あっ」
ブルマの体は一瞬にして窓の外に引っ張り出された。
「や、やだ!」
ブルマは思わずベジータの身体にしがみついた。
「いちいち騒がしい女だ…。」
ベジータが小さく呟いた。
まるで海を泳いでいるようである。
不安定な体がベジータの腕の中に包み込まれる。
目の前には輝く星屑が、
足元には見慣れた夜景が広がっている。
ただひとついつもと違うこと。
一緒にいるのはヤムチャじゃないということ。
ベジータがブルマをしっかり抱き寄せていることであった。
ベジータ。
いい匂いがする…。
初めて気づいた彼の体臭。
パジャマ1枚だけを通して伝わってくる彼の体温。
ベジータのたくましい胸がブルマの目の前にある。
ヤムチャよりかなリ小さいが
無駄のない美しい身体である。
ベジータはブルマの背中に右腕を、
腰に左腕を添えて彼女をしっかり支えていた。
「ベジータ?…どこへいくの?」
ベジータは答えなかった。
聞こえなかったのか
聞こえないふりをしているのか。
今私の命はベジータが握っている。
もしここで手を離されたら
私はおしまいだ。
だけどあんまり怖くない。
どうしてだろう?
「ベジータ。」
「なんだ」
「空を自分で飛ぶのって気持ちがいいね。」
ブルマは体の力を抜いた。
そしてベジータの腕のなかで静かに目を閉じた。
いつしか心臓の音も穏やかになっていた。
ベジータがブルマと向かったのは
北の山岳地帯であった。
そこはベジータがいつも一人で過ごしている場所である。
真っ暗ではあるが
かすかに森の木々が見えた。
しばらくすると
深い森の間から大きな湖が見えてきた。
暗いはずの水面が
月の光を反射してきらきらと輝いていた。
ブルマは思わず目を見開いた。
「みろ」
ベジータはそれだけ言うと徐々に高度を下げた。
湖に反射した月の光が
森の樹木を照らし出す。
満月がいくつもの小さな宝石と散って
ベジータとブルマに降り注ぐ。
ブルマはそっとベジータの顔を見上げた。
ベジータの端正な顔が白く輝いていた。
闇がこんなに美しいなんて…。
体中がしびれる。
全身に力が入らない。
そっとベジータの顔を見てみるブルマ。
漆黒の瞳が水面の輝きを映し出す。
ベジータは湖のほとりにそっと降り立った。
そしてブルマの体を支えてたたせようとした。
しかしブルマはよろめいてしまった。
全身から力が抜けて
どうしても立てなかった。
「あ…」
膝をつきそうになるブルマ。
ベジータは何もいわずに彼女の体を抱きとめた。
太く
たくましいベジータの腕。
その腕の暖かさにブルマの心が震えた。
「ベジータ…」
ベジータはブルマの顔を覗き込んだ。
ベジータはブルマから目をそらさなかった。
黒い瞳にブルマの顔が写っている。
ブルマは動けなかった。
ベジータが怖いわけではなかった。
だけど自分の中で語りかける声が聞こえた。
私にはヤムチャがいるの、と。
ベジータはもう何も言わなかった。
ただブルマの瞳を黙って見つめた。
そしてゆっくりと彼は下ろしていた両腕を
あげ始めた。
手袋が白く闇に浮かぶ。
ブルマの唇がかすかに開き
彼女は何か言おうとした。
その唇を
ベジータの人差し指が
そっと抑えた。
ただそれだけのことなのに
ブルマの身体は動けなくなった。
頭の芯がしびれて
めまいがしそうな気がした。
ベジータはかすかに唇を動かした。
しかしその言葉は聞き取ることは出来ない。
夜空から
降り注ぐ
透明な
ムーンライト。
ベジータは白い手袋をつけた両手で彼女の顔をはさんだ。
本当に、そっと…。
月の光を浴びながら。
そしてブルマの耳にそっとささやいた。
「…なにもいうな」
ムーンライト(5)
これは現実のことなのだろうか??
手袋を通してブルマに伝わるのは
ベジータの心臓の音。
その音はいつしか
ブルマの体内の音と重なって
彼女の体中をめぐっていく。
ブルマはそっと目を伏せた。
ベジータのまっ黒な瞳にうつる自分の姿を
とてもみることができなかったから。
意外でもあった。
ベジータの手はあたたかかった。
そして柔らかな感触が手袋の上からも
よくわかるのだった。
本当にこの手がベジータなの?
ブルマは自分で自分にきいてみた。
いま自分に触れているこの手は
あの恐ろしいマイナスのエネルギーを発射する手ではない。
この手からは冷たさなど微塵も感じられない。
この人は本当にべジータなの?
彼の残虐な行為はこの目で見てきた。
ブルマだって殺されていたかもしれない男だ。
小さな悟飯さえぼろ布のように痛めつけた男だ。
この人が、本当に??
べジータはそれ以上何もしなかった。
ただ一度だけ微かに両手に力をいれて
ブルマの頬の感触を確認したように思えた。
そして目を曇らせると
下を向いた。
言葉はなかった。
そして
ベジータはブルマのほおから手のひらを離すと
さっと背中を向けた。
月明かりで彼の背中が輝いて見えた。
べジータは自ら戦闘服の上着を脱ぎ始めた。
脱いだというより破り捨てているようにも思えた。
それはまだ衣類の脱ぎ着の下手な子供が
いらいらしている様子にも見えた。
やがて
黒っぽい布地の下から
ベジータの鍛えられた体が表れた。
無駄な物の一切ついていない背中だ。
その肌は滑らかで
透き通るように白く
とても男のものとは思えない。
夜風にさらされたベジータの体は光を発しているように見えた。
きれい・・・
その気持に嘘はなかった。
ヤムチャや孫君の体とは全然違う、とも思った。
地球の男の体からは獣のにおいがするけれど
ベジータの体からはその生々しさが感じられなかった。
それは
本当に彫像のような美しさを感じさせたのだ。
触ってみたい。
素直にそう思った。
あ、でも…
もしかしてとっても危ない展開なのかもしれない。
我に帰ったブルマである。
深夜のこんな時間に誰もいない山の中で
ベジータと二人。
べジータとだ。
何があっても文句は言えない。
そして
こんなところで突然肌をさらす
べジータの目的がブルマにはどうしてもわからなかった。
そうして自分はよく考えてみれば
薄いパジャマ一枚なのだ。
その下には小さなパンティしかはいていない。
おろかだったのではないか。
ブルマはこぶしを握った。
そのとき
「おい」
べジータが声を出した。
ぶっきらぼうに。
ベジータはブルマに向かって上着を突きつけた。
ブルマは顔を赤くしてベジータの顔を見た。
心臓が止まりそうだった。
一瞬ベジータに抱かれる自分の姿が目にうかんだのだ。
それはみだらな映像だった。
何でこんなことを??
どうかしていると思った。
そうしてそんなことを考える自分は
なんていやらしいと。
私はそれを期待をしているのか・・・。
そうも思った。
その全てを否定しながらも
否定し切れない自分に
ブルマ本人が驚き
そして自分を嫌悪したのだ。
「・・・」
ブルマが全く動かないものだから
ベジータは一寸眉を曇らせた。
口元をへの字に曲げたままべジータは自分の上着を見た。
そしてばさばさっと上着を広げると
邪魔くさそうにブルマの足元にひいた。
「ここに座れ」
まるで命令口調である。
しかし怒っているようには見えなかった。
そして自分はブルマのいる場所から少し北側にはなれていった。
そこに彼は一人で寝転んだ。
「・・・いい月だ」
べジータは漆黒の夜空を仰ぎ見た。
それは本当に美しい月夜であった。
疲れていたブルマの心をいやすのには十分なほどの・・・。
「なあんだ・・・」
「なにがだ?」
一度は上着の上に腰を下ろしたブルマであった。
しかしブルマは立ち上がると
腰にしいたベジータの上着を手にとった。
そして黙ってベジータの横に行き
その隣の場所に改めて上着を広げた。
ベジータは少し驚いたようだった。
黙ってブルマの顔を見た。
ただそれだけのことだった。
二人は無言で夜空を眺めた。
ブルマはそっとベジータの左手に
自分の右手を添えてみた。
そして彼の手を自分から握ってみた。
ベジータの手が
それに答えたように思った。
東の空があかるくなり始めたころ
ブルマはベジータに抱かれて部屋へと飛んだ。
朝焼けはどこまでも赤く二人を照らし
次第にそれは金色の朝日となって彼らを祝福した。
わずか何時間かの間であった。
何があったわけでもないが
それでもブルマの胸は激しく震えていた。
ブルマの部屋の窓は開いたままで
夜風が机上の書類をばら撒いていた。
ベジータはブルマを部屋に送り届けると
何もいわずに北の方角に飛んでいった。
「どうして私を誘ったの?」
小さくつぶやいたブルマの問いに
ベジータはただ一言、
「さあな」
とだけ答えた。
ベジータの去ったあと
ブルマはしばらく窓の外を眺めていた。
夢のような夜だった。
完全に夜があけて
ブルマはようやく窓を閉める気になったのだった。
今日からはまた元気にやっていこう
それこそが私だわ!
今日は化粧もばっちり決めて明るい色のシャツを着よう。
そう思ったブルマは
さっそくシャワーを浴びようと部屋の中を振り返った。
ブルマはそのとき
はじめて気づいたのだ。
自分の部屋に
ヤムチャがいたことに。
手袋を通してブルマに伝わるのは
ベジータの心臓の音。
その音はいつしか
ブルマの体内の音と重なって
彼女の体中をめぐっていく。
ブルマはそっと目を伏せた。
ベジータのまっ黒な瞳にうつる自分の姿を
とてもみることができなかったから。
意外でもあった。
ベジータの手はあたたかかった。
そして柔らかな感触が手袋の上からも
よくわかるのだった。
本当にこの手がベジータなの?
ブルマは自分で自分にきいてみた。
いま自分に触れているこの手は
あの恐ろしいマイナスのエネルギーを発射する手ではない。
この手からは冷たさなど微塵も感じられない。
この人は本当にべジータなの?
彼の残虐な行為はこの目で見てきた。
ブルマだって殺されていたかもしれない男だ。
小さな悟飯さえぼろ布のように痛めつけた男だ。
この人が、本当に??
べジータはそれ以上何もしなかった。
ただ一度だけ微かに両手に力をいれて
ブルマの頬の感触を確認したように思えた。
そして目を曇らせると
下を向いた。
言葉はなかった。
そして
ベジータはブルマのほおから手のひらを離すと
さっと背中を向けた。
月明かりで彼の背中が輝いて見えた。
べジータは自ら戦闘服の上着を脱ぎ始めた。
脱いだというより破り捨てているようにも思えた。
それはまだ衣類の脱ぎ着の下手な子供が
いらいらしている様子にも見えた。
やがて
黒っぽい布地の下から
ベジータの鍛えられた体が表れた。
無駄な物の一切ついていない背中だ。
その肌は滑らかで
透き通るように白く
とても男のものとは思えない。
夜風にさらされたベジータの体は光を発しているように見えた。
きれい・・・
その気持に嘘はなかった。
ヤムチャや孫君の体とは全然違う、とも思った。
地球の男の体からは獣のにおいがするけれど
ベジータの体からはその生々しさが感じられなかった。
それは
本当に彫像のような美しさを感じさせたのだ。
触ってみたい。
素直にそう思った。
あ、でも…
もしかしてとっても危ない展開なのかもしれない。
我に帰ったブルマである。
深夜のこんな時間に誰もいない山の中で
ベジータと二人。
べジータとだ。
何があっても文句は言えない。
そして
こんなところで突然肌をさらす
べジータの目的がブルマにはどうしてもわからなかった。
そうして自分はよく考えてみれば
薄いパジャマ一枚なのだ。
その下には小さなパンティしかはいていない。
おろかだったのではないか。
ブルマはこぶしを握った。
そのとき
「おい」
べジータが声を出した。
ぶっきらぼうに。
ベジータはブルマに向かって上着を突きつけた。
ブルマは顔を赤くしてベジータの顔を見た。
心臓が止まりそうだった。
一瞬ベジータに抱かれる自分の姿が目にうかんだのだ。
それはみだらな映像だった。
何でこんなことを??
どうかしていると思った。
そうしてそんなことを考える自分は
なんていやらしいと。
私はそれを期待をしているのか・・・。
そうも思った。
その全てを否定しながらも
否定し切れない自分に
ブルマ本人が驚き
そして自分を嫌悪したのだ。
「・・・」
ブルマが全く動かないものだから
ベジータは一寸眉を曇らせた。
口元をへの字に曲げたままべジータは自分の上着を見た。
そしてばさばさっと上着を広げると
邪魔くさそうにブルマの足元にひいた。
「ここに座れ」
まるで命令口調である。
しかし怒っているようには見えなかった。
そして自分はブルマのいる場所から少し北側にはなれていった。
そこに彼は一人で寝転んだ。
「・・・いい月だ」
べジータは漆黒の夜空を仰ぎ見た。
それは本当に美しい月夜であった。
疲れていたブルマの心をいやすのには十分なほどの・・・。
「なあんだ・・・」
「なにがだ?」
一度は上着の上に腰を下ろしたブルマであった。
しかしブルマは立ち上がると
腰にしいたベジータの上着を手にとった。
そして黙ってベジータの横に行き
その隣の場所に改めて上着を広げた。
ベジータは少し驚いたようだった。
黙ってブルマの顔を見た。
ただそれだけのことだった。
二人は無言で夜空を眺めた。
ブルマはそっとベジータの左手に
自分の右手を添えてみた。
そして彼の手を自分から握ってみた。
ベジータの手が
それに答えたように思った。
東の空があかるくなり始めたころ
ブルマはベジータに抱かれて部屋へと飛んだ。
朝焼けはどこまでも赤く二人を照らし
次第にそれは金色の朝日となって彼らを祝福した。
わずか何時間かの間であった。
何があったわけでもないが
それでもブルマの胸は激しく震えていた。
ブルマの部屋の窓は開いたままで
夜風が机上の書類をばら撒いていた。
ベジータはブルマを部屋に送り届けると
何もいわずに北の方角に飛んでいった。
「どうして私を誘ったの?」
小さくつぶやいたブルマの問いに
ベジータはただ一言、
「さあな」
とだけ答えた。
ベジータの去ったあと
ブルマはしばらく窓の外を眺めていた。
夢のような夜だった。
完全に夜があけて
ブルマはようやく窓を閉める気になったのだった。
今日からはまた元気にやっていこう
それこそが私だわ!
今日は化粧もばっちり決めて明るい色のシャツを着よう。
そう思ったブルマは
さっそくシャワーを浴びようと部屋の中を振り返った。
ブルマはそのとき
はじめて気づいたのだ。
自分の部屋に
ヤムチャがいたことに。








